ある日常の風景~沖田健二の場合~
「お前が沖田健二か?」
学校からの帰宅途中、見知らぬ男に声を掛けられた・・・
(またか・・・)沖田は内心溜息を付く。
本日、クラスメート兼幼馴染のご近所さんである「椎名透」は部活動のためいない。月に2~3回くらいしか活動していない「映画観賞会部」で「時計仕掛けのオレンジ」という映画の観賞会があるそうだ。なかなかに古い映画で、反社会的な風刺映画らしい。沖田もちょっと見たい気もしたが、本日沖田は習い事である「剣道道場」へ稽古に行く日だったので、先に帰ってきたところだった。
(あいつがいないと、どうしてこうも絡まれるんだ?)
むかしから、人相・・・というか、目付きが悪いせいか、不良っぽいお兄様達によく絡まれた。なにもしていないのに、で、ある。理不尽極まりないのである。
しかし、「透」が隣にいると、絡まれない。奴さん独自の雰囲気。警戒心を削ぐ外見が、沖田の不穏な空気を打ち消すかのように・・・つまりプラスマイナスゼロ効果である。
「なんか用っすか?」
不満たらたらな態度で返事する。
本日声を掛けてきた男は、どう見ても上級生。制服を着ているから、学生ではあるだろうが、知らない学校の制服だ。この近所の学校ではないようである。身長も高い。高校一年にして、すでに170CMを越超えている沖田が見上げる背の高さだ。
だが沖田は怯むことなく相手を睨んだ。いや、睨んだわけでなく見返しただけなのだが・・・目つきが悪いので睨んだように見える。そしてふてぶてしいこの態度。お前のほうがタイマン張ってるだろうって言いたくなる。だが本人はいたって普通に対応しているつもりなのだ。
その対応に相手の男は怯んだように一歩後ろに後ずさった。
「あ、いや、警戒させたならすまない・・・」
以外にも素直に謝った。因縁つけに来たわけではないかもしれない。沖田はスッと目を細めて相手を見た。
確かに伸長はあるし、茶髪でピアスしているお兄さんだが、ガラが悪いわけではない。まあ、今時のファッションといえば言えるかもしれない。
相手の男は沖田が目を細めたことで、さらにビクついたらしい。冷や汗をかきだした・・・
「それで・・・?」「え・・と、君・・・」「・・・・」「・・・」
無言で見つめあってしまった。
「何なんですか!いったい!」早く話せよ!噛みつかんばかりに言い放った!
「わー、すまない!透君に紹介されたんだー!」(透?)
ハタと動きを止める。
「とおる・・・?ですか?」「ああ、君は椎名透君の親友なんだろ?」
(親友・・・)何かイヤな予感がする。「近所のモノです。」
「あれ、透君が小さい頃からずっと一緒にいて、親友なんだって自慢していたぜ」
なにをしている!透!
「透が何を言ったんですか?」
「いや、俺、都内の高校に通ってるんだけど、この前、映画館で地元のチーマーに絡まれてヤバイとこに連れ込まれそうになってたんだ・・・」「そこに、たまたま映画館に来ていた透君に出会って、声かけられた・・・」
彼の話によると、5人組に囲まれて、逃げ出せずに裏道に連れ込まれそうになっていたところ、透がやってきて、のほほんと道を尋ね、のほほんと彼の持っていた映画のパンフレットを見つけ、のほほんと映画の感想を聞き出し、のほほんと5人組から引き離し、ちゃっかり映画館まで案内させたらしい。
要は横浜から都内の映画館に映画を見に来たが、道に迷い、映画のパンフを持っていた彼に道案内させたということだ。その間、5人のチーマー達の険悪な空気を一新させ、映画やダンスの話で盛り上がっていたらしい。・・・いや、なんでダンス?
「それで、透君とすっかり打ち解けて、悩み事を話したんだ・・・」
ガタイが良くて、一見怖そうに見えるため、しょっちゅう不良共に絡まれる。でも腕っぷしは強くない。どちらかというと運動は苦手、そのため逃げ足も遅い。外見それっぽくして、近寄り難くしてみてもあまり効果がない。どうしたもんかと悩んでると相談したところ、沖田に聞けばいいと言われた・・・そういう落ちだった。
(なんじゃ、そりゃ)無茶ぶりもいいとこである。
「いや、俺に聞かれたもわかんないっすよ」「そんな!同じ悩みを持つ者だって言ってたぞ!」
(とおる~~~っ!)あのやろう!初対面の人間に何言ってくれてんじゃー!
「まあ、今回は突然のことで、戸惑いもあるだろうからこのまま引くけど、顔繋いだんだから、次会うときは話を聞いてくれよ。透君にも会いたいから一緒に会おうぜ。連絡先渡しておく」そう言うと、電話番号と、アカウントを書いた紙きれを沖田に渡す。「いや、俺は・・・」「じゃあな、突然悪かった。俺、新城って言うんだ。新城彰。」そう言うと、軽く手を挙げ、その場から立ち去った。
そそくさと・・・沖田の返事も聞かず・・・
(おい~~~)もう何を言わんかや・・・
(覚えておけよ!透!)沖田は渡された紙を握りしめ、めっちゃ怖い顔で道場へ足を向けるのであった。
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