ショート・ショート☆ストーリー3

ある日常の風景~東条雅の場合~

 この学校に通う切っ掛けになった原因は「椎名透」だった。

 そもそも、地方財閥の東条グループ総裁の御曹司である雅の通う学校は、私立の一貫校で、高校受験の必要などなかったのだ。なのに、わざわざ神奈川に住む祖父の家に間借りして、県立の公立高校を受験してまで、この学校を選んだのは「椎名透」という人物と同じ学校に通いたかったから・・・彼に近づき、彼のことをもっと知りたいと思ったからである。

 考えてみると怖い話である。ちょっとしたきっかけでストーカーと化している。

 たまたま外出中の車内で都内の道で見かけた、自分と同じ位の歳の少年が、怖そうな大人二人に怒鳴られて、どう見ても危険な雰囲気だったので警察に通報でもするべきか・・・と、悩んでいたところ、緊迫した空気が、なんだか和んできて、怖そうなおじさん二人がポンポンと少年の頭をたたき、何か、チョコレートみたいなものを少年に渡して、手を振って別れたのである。
 ただそれだけの光景だったのだが、雅はその後の彼の行動に目を見張った。

 その少年は、もらったチョコレートらしきものの紙をペリペリと剥がし、その場で食べ始めたのだ。食べながら鼻歌でも歌っていそうな様子で駅のほうへ歩いて行った。

 (えっ?今怖い目に遭ってたんだよね・・・?)(あのヤクザっぽい人たちに怒鳴られてたよね?)(何があったかわからないけど・・・その人達から貰ったものを躊躇なく口にしちゃう?)(それも、いま?!)

 衝撃であった。そんな行動理念は習ってこなかった。東条の跡を継ぐものとして、行動心理学も学んできた。人を動かすために人を知らなければならないと言われて学校の授業にない科目も学んでいる。そのため、ある程度人の行動は予想が付くようになった。

 が・・・!予想外だった。そして、不思議だった。

 いったいなぜ、怒鳴られていたのか、何を言って和んだのか、なぜ、菓子をもらったのか?
 すごく不思議だった。そして興味が沸いた。

 (僕もまだまだですね。)
 十五にして、ある程度人心を掌握する力があると思っていた。周りの人も彼にはカリスマがあると評価している。自分の人生はこのまま父の会社を継ぐことになる未来しか見えていなかった。予測された将来。予定通りの人生。人間の行動には一定の法則があるから、未来は予測することができる。

 と、思ってきた。

「工藤さん。」雅は運転手兼ボディーガードの工藤に声を掛けた。

「あの少年の素性調べてもらえますか?どこの何者なのか・・・」
「・・・畏まりました。」工藤は何の疑問も問わず命令に承諾すると、車載カメラを少年に向け、向かった駅に車を回した。

 中学3年の夏の出来事であった

東条雅の日常 -透を追いかけまくる日常-

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