ショート・ショート☆ストーリー

創造人話 ~オリジナル作品~

ある日常の風景~椎名透の場合~

 高校に入学して、電車で通学するようになって、駅のアナウンスで気になることができた。
気になるというか、聞こえるというか・・・

 「けんちゃん・・・」隣にいる、クラスメート兼、幼馴染のご近所さんである「沖田健二」に話しかける。
 「”ちゃん”はやめろ”ちゃん”は!」(あ、そうだった・・・)
 なにせ、物心ついた頃からの付き合いである、幼稚園時代から「けんちゃん」と呼んでいたので、つい子供の頃の呼び方が出てしまう。いや、今だ成人しているわけではないが、男子高校生がちゃん付けはないだろうというのは、よく解る。
「ごめん。健二・・・くん」
 なんか、呼び捨てにできない。付き合い長くても呼び捨てにできない威圧感がある奴なのである。沖田健二という男は。
 (ふう・・・・)溜息をつきながら
「くんもいらん」とそっけなく言い放たれる。
 (デスヨネ~)今更ながら呼び方などどうでもいいだろうと思いつつ「沖田・・・」とつぶやく。
 苗字は呼び捨てられる。なぜか。

 「で、なんだよ」沖田ににらまれ駅のベンチに腰を下ろしながら、先ほどの気になることを聞いてみた。
「トイレの前を通るとき、必ずアナウンスが聞こえるじゃん。」
「アナウンス?」「うん。ほら、『こちらは多機能トイレです。』ってやつ」
 つと、上を見上げて「ああ・・・」と思い出したようにつぶやく。「聞こえるな」それがどうしたと言わんばかりに睨みつける。
 いや、本人は決して睨みつけてるわけではないのだが、何しろ、三白眼で目付きが悪いのである。その対極にあるのが、椎名透。この疑問の持ち主である彼だ。
 ホンワカした性格はそのまま外見にあらわれ、人に警戒心を抱かせない。まったく。
 なんなら、野生動物にも警戒心を抱かせない。たぶん。

「で・・・」
「あれさぁ。こちらは滝のおトイレですって聞こえない?」
「は?」沖田の三白眼が思いっきり見開かれた。(あ、ぱっちり目にできるじゃん)いくらか、怖くなくなるのに・・・どうでもいい感想を抱いた。
「だからね、水がドバドバ落ちてくる滝の流れるトイレを想像しちゃわない?」
「・・・・」
 また三白眼にもどった。しかも、呆れているような空気を醸している。

「聞こえるよね~絶対!僕だけがそう思っているわけじゃないよね~?」
 その時、駅のホームに自分たちの乗る電車が入ってきた。沖田は無言で電車に乗り込む。慌てて透も電車に乗り込んだのだった。

椎名透の日常 -ほんとにどうでもいい日常-

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